有限体上の線形代数

線形代数の講義で体が主役になることはあまりありません.だいたい RC くらいを想定しておけば十分です.ところが,有限体上で線形代数を考えると色々と面白いことがあります.そして,組合せ論ではけっこう重要だったりするのです.

さて,次の命題のうち体 F が有限体であっても正しいのはどれでしょうか(ちなみに F=Rの場合はどれも正しい命題です).以下では,部分空間 $V\subseteq\mathbf{F}^n$ に対して $ V^{\perp} := \{v\in\mathbf{F}^n : v^\top u = 0 \quad (u\in V) \} $ とします.

  1. $a,b\in\mathbf{F}^n$ に対して $\langle a, b \rangle := a^\top b$ は内積を定める.
  2. 任意の部分空間 $V$ に対して $V\cap V^{\perp}= \{0\}$ である.
  3. 任意の部分空間 $V$ に対して $\mathbf{F}^n = V + V^{\perp}$ である.
  4. 任意の部分空間 $V$ に対して $n = \dim V + \dim V^{\perp}$ である.


答え

1: .例えば,$\mathbf{F}=\mathbf{F}_2$ (2元体)とし,$a = b = [1,1]^\top$ とすると $a, b \neq 0$ なのに内積は0になってしまい,内積の公理を満たしません.

2: .上と同じ体で $V = \langle [1,1]^\top \rangle$ とすると $V = V^{\perp}$ より直交しません.

3: .上と同じ V で $V + V^{\perp} \neq \mathbf{F}_2^2$.

4: .3が成り立たないので意外に感じるかもしれません.$v_1, \cdots, v_k$ を V の基底とし,行列 $A = \begin{bmatrix}v_1 & \cdots & v_k\end{bmatrix}^\top$ を考えます.すると次元定理(これは任意の体で成立します!)により $\mathrm{rank} A + \dim\ker A = n$ となりますが,$\mathrm{rank} A = \dim V$, $\ker A = V^{\perp}$ なので,$n = \dim V + \dim V^{\perp}$ が成立します.


参考文献: Lovász, "Combinatorial Problems and Exercises"