放射性セシウムの致死量は一体何gなのか

武田氏の「一関市長さんへのご返事」の中で、「放射性セシウム137の{成人、経口}での50%致死量は0.1ミリグラム程度」ということが書いてある。ふうんと思っていたのだけれど、「じゃあ猛毒と噂のプルトニウムは何グラムなのかな」と調べてみると、半数致死量は急性・経口で32g、長期・経口で1150mgと書いてあった*1。「あれ、セシウムの致死量少なすぎね?」と思って色々調べてみた。*2

放射性セシウムの半数致死量のソースが見つからない

いろいろ探したんだけど、放射性セシウムの質量単位での半数致死量を記したデータが見つからなかった。アメリカの政府機関が作った"TOXICOLOGICAL PROFILE FOR CESIUM"という文書にも、放射性セシウムの経口摂取についてのレポートはない*3と記載されている。私の調査不足かもしれないが。

武田氏は「預託実効線量」で計算した?

セシウム137の致死量は0.1mgなのか? - Togetterまとめでは、武田氏の計算を推測している。「半数致死量0.1mg」のソースが見つからない以上、武田氏もこの計算を行ったと推測するしかない。このまとめによると、どうやらこういうことらしい。

  • Cs137は1gあたり3.215×1012Bq
  • Cs137の線量換算係数は1.3×10-8Bq/Sv
  • 急性放射線障害での半数致死量は4Sv

これの3つから計算すると、確かに0.1mgくらいの値が出てくる。
問題点は2つ指摘されていて、まず「線量換算係数」で出てくるSvの値は「預託実効線量」ということらしい。これは、よくわからなかったので調べた。どうやら、あるBqを体内に入れた後50年間にわたって受ける放射線量の積算値のことらしい*4。となると、急性放射線障害の半数致死量4Svと比較して「半数致死量」を求めるのはまったく奇妙に思える。
もう1つは、「致死量」がどの期間で死ぬ量なのかさっぱりわからないことだ。武田氏は比較として青酸カリの致死量を出していることから考えると、やはり「急性」での毒性を比較したいのだろう。となると、50年の積算値である預託実効線量で計算するのはやはりおかしい。

というかそんな高線量の野菜見つかってないよね

結局、武田氏は計算の過程や根拠を全く示さなかったので、正しいのかどうかさっぱり分からなかった。そして、何より3億2000万Bqなどという野菜は見つかっていない。汚泥ですら、数十万Bq/kgくらいだ。その点でも、容易に?致死量を集めて口にすることができる青酸カリとの比較はミスリードと言われても仕方がない。


結論:武田氏の「放射性セシウム137の{成人、経口}での50%致死量は0.1ミリグラム程度」という発言を信じる理由は見つからない。

*1:[http://ja.wikipedia.org/wiki/%e3%83%97%e3%83%ab%e3%83%88%e3%83%8b%e3%82%a6%e3%83%a0:title]

*2:もちろん、放射線の専門家でもなんでもないので、大ポカをやらかしている可能性もあることに注意!

*3:§3.2.2.1 Deathより原文:"No reports were located regarding death in humans that could be exclusively associated with acute-, intermediate-, or chronic-duration oral exposure to radioactive cesium."

*4:[http://search.kankyo-hoshano.go.jp/food2/servlet/food2_in:title]の絵を見ると、これが瞬間値ではなく積分であることがよくわかる